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電気化学における基礎と応用を解説した内容です。
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その4:溶液抵抗とiR補償について

前回、ポジティブフィードバックについて述べた。そこでは未補償溶液抵抗(Ru)はポテンショスタットが測定してくれると記述した。しかしどのようにポテンショスタットが測定するかはふれなかった。でも、どのように?と思う人がおられるようなので今回はその辺のことを確かにしておきたいと思います。ここでの記述のもとになっている文献も挙げておきます( P. He、L. R. Faulkner, Anal. Chem., 58, , 517(1986))。

3電極セルのインピーダンスは図1のように表すことができる。Zfは活性種のレドックス反応に関わるファラデーインピーダンスです(ここでは活性種の拡散に関わるインピーダンスを考慮しない)。溶液抵抗は参照電極を挟んで対極と参照電極、および参照電極と作用電極の間にあるが(それぞれRs、Ruで表す)、ポテンショスタットはRsを考慮できるがRuを認識できない(そのため、セルに流れる電流と未補償溶液抵抗の積i×Ruによって引き起こされる電位降下分をコントロールできない)。
電気化学 の基礎:3電極セルのインピーダンス

レドックス反応が起こらない電位ではZfは無限大に近いと考えてもよいので二重層容量Cdlが未補償溶液抵抗に直列に入る等価回路で置き換えて考えてよい。
このような回路に小さなステップ電圧、∆E(50 mV程度の)を印加するとき流れる応答電流を模式的に描くと図2のようになる。式で表すとRuCdlの時定数を持つ指数関数で与えられる(次式)。

i(t) = (∆E/Ru) exp(-t/RuCdl)

t = 0では指数関数は1ですからi(0) = ∆E/Ruとなります。つまり電位印加直後の電流値が知られるならば∆Eは設定値であり既知ですから(例えば50 mVと設定した場合) Ruが求められることになります。
時間ゼロにおける電流値は、図2に描くようなやり方、すなわち電位ステップ後の2つの時点での電流値を測定し(図では52、72マイクロ秒)、それをゼロ時間に外挿することで近似的に求められる。セルの時定数(Ru × Cdlで与えられる)がポテンショスタットの立ち上がり時間に比較して小さいとき誤差は大きくなるが、そのような場合はRuが小さいことを意味し、iR補償自体がほとんど必要ない。
電気化学 の基礎:ステップ電位に対する応答電流の時間変化

このようにして求めた溶液抵抗を使ってポジティブフィードバックを行うわけです。参照電極の位置によりおおいにRuは影響を受けるので、作用電極のできるだけ近くに設置し、測定ごとに変動しないように注意することが望ましい。 微小電極における微小電流下では、影響が小さいので溶液抵抗の問題は少ない。電流量の大きなバルク電解では電位設定に余裕があるので、比較的問題は少ない。iR補償は補償量が多いと不安定化の原因になるのでくれぐれも注意をしてください。


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