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電気化学測定法である電気化学インピーダンス分光法(EIS)についての基礎的な内容です。
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電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(7):ネルンスト拡散

拡散の特殊なケース ここまで考えてきた拡散(ワールブルグ拡散)は半無限一次元拡散の境界条件が成り立つ場合でした。それでは半無限一次元拡散の境界条件が成り立たない場合はどうなるのか。例えば、修飾電極中の活物質の移動や色素増感型やペロブスカイト型太陽電池などの場合のように電子やイオンの移動範囲が限定される拡散、回転電極のような定常的な拡散層が形成されるような場合などである。このような拡散に対してはいくつか異なる取り扱いが行われています。それぞれについて分けて述べましょう。
最初はネルンスト拡散モデル(Nernst diffusion, ND)と呼ばれるものです。移動が限定される場合で、有限拡散モデル(finite diffusion, FD)と呼ばれる場合もあります。有限厚さの拡散層は存在するが、移動が限定されないもので、回転電極やプロトン交換膜型燃料電池(PEMFC)がND拡散に対応します。NDのインピーダンスは下式で与えられる。

電気化学 測定 NDのインピーダンス式

ここでσはワールブルグインピーダンス中(このシリーズの4回目)に表れるものと同じものです(活物質の濃度や拡散係数の値に依存し、これらが大きくなるとσは減少、従ってインピーダンスも減少します)。δは膜厚に相当するものです。式から比δ2/Dによってプロファイルが影響されるとともに、活物質濃度Cもσに大きな影響を及ぼすので、これらC、D、δによって複雑に変化する。δが増えると直線部分が長くなる。CやDが減少すると拡散インピーダンスが大きくなるがCの効きかたの方が大きい。
この式のシミュレーション例を下図に示します。Rs=0、Rct=8、Cdl=10-4、D=10-4として、濃度Cと膜厚δに対するパラメータを変化させたときのナイキストプロットの変化を示したものです。

左の高周波側の半円は電極での電子移動と界面二重層容量の並列回路に由来し、一定の大きさです(横軸のサイズが異なることに注意。抵抗値が同一、同じ直径の半円です)。
膜厚や濃度に依存して、45度勾配の直線の長さや、それに続く低周波側の円弧の大きさが変わることが了解されるでしょう。電極過程は1つしかないのに、見かけ的に円弧が2つ現れる。半無限拡散では直線だったものが、もう1つの半円を作りだしているのです。拡散に起因する半円は、電極過程による半円に比べて大きい間は、低周波数域の半円の高周波側に実軸に対して45度の角度をもつ直線部分が残っていることも特徴です。PEMFCやRRDEのインピーダンス測定において、しばしば見られるナイキストプロットです。
電気化学 測定 図.ネルンスト拡散のナイキストプロット例

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