トップページ > 電気化学計測 > これから電気化学を始める方のための基礎 > 電気化学インピーダンス分光法(EIS)について

電気化学測定法である電気化学インピーダンス分光法(EIS)についての基礎的な内容です。
その他はこちら

電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(10):色素増感太陽電池(DSSC)のEIS-2

電気化学計測の基本は3電極法であるが対象の構造上の制約から、参照電極を省く2電極法をとらざるを得ない場合が多々ある。例えば、色素増感太陽電池(DSSC)、燃料電池、リチウムイオン電池などがそうである。2電極法でのEISでは作用電極と対極の足し合わせた情報が反映されて、それぞれを区別した測定ができない。作用電極のみ、又は対極のみの情報を知りたいときはこれでは困る。DSSCではアノードとしてナノポーラス酸化チタン膜、カソードとしてPt電極が使われる。これら電極それぞれの性能を反映したEIS情報の他に、溶液成分中のイオンの拡散情報などの寄与が加わる。実際のDSSC ではアノードとカソード間の空間に参照電極を挿入することは殆ど不可能なので、カソードと切り離してアノードだけのインピーダンス測定は難しい。


今回はDSSCにおいて参照電極を組み込んだ工夫の例を紹介しよう1)。参照電極を組み込むために多少、現実とは離れた構成のDSSC を作って試した例で、カソードとアノードの寄与をそれぞれ比較するのに役に立つ。図1はセルの模式図である。参照電極(0.2 mm径の白金線、表面を白金黒化)をアノードとカソード間(間隔1.5 mm)に挿入してある。
電気化学 の基礎:3電極式 DSSCの模式図


図2はこのセルを用いて得られたナイキストプロットである。上図はカソード(対極)のPt 量を変えた4種のセルについてのトータルインピーダンスである。トータルインピーダンスを求める場合はアノードとカソードのみで、参照電極を使わずに測定する。Pt量が少ない2つではアークが大きすぎて図には入りきれない(カソードは透明電極上に熱分解により担持した白金量を変えたもの)。Pt 量が増えるに従い高周波数域(図ではω2と表示)のアークが小さくなる。これにより高周波数部のアークがカソード由来であることは明らかである。一方、中間周波数域(ω3)のアークは白金の担持量に依存しないので、カソード以外に拠るものである。図2の下図はTiO2を作用電極として3電極式で測定したもので対極の影響が入っていないはずである。アークの頂点周波数は厳密には同じにはならない。若干、変動することはある。周波数は抵抗成分と容量成分の掛け算で決まり、条件を変えると、これらはそれぞれ独立に影響されるからである。この他、溶液成分を変えて、種々検討しており、それらの影響がインピーダンスとしてどのように反映されるかが良くわかる興味深い例である。
電気化学 の基礎:トータルインピーダンス(上)とアノードのインピーダンス(下)の比較

性能の良い対極を用いるセルでは(対極のインピーダンスは小さいだろうから)2極方式のインピーダンス測定法でも差し支えないことが多いのだが、それでも、3極式セルの検討の意義は大きいだろう。
1) K.Eguchi et al., J. Electroanal. Chem., 588 , 59 (2006)

pdf資料はこちらからダウンロードできます(約170 KB)

line
トップページ電気化学 測定電極&アクセサリ光と電気化学分光分析お問い合わせ